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リーガル通信 ~証拠を残しておくこと~

2017年08月03日

 少し前の話になってしまいましたが,とある国会議員のパワハラともとれる発言がマスコミ等で話題となり,社会問題化しました。発言内容の当否は言うまでもありませんが,今回,なぜこの議員の発言が大きく取り上げられることになったのでしょうか。私は,被害者の方が議員の発言内容を正確に録音していたことが大きな理由になっているのではないかと思っています。これが,録音も何もなく,ただ「○○議員に暴言を浴びせられた」と被害者の方が主張しただけでは,発言の真偽が第三者には客観的にわからないため,おそらくこれほど大々的に取り上げられることはなかったでしょう。

 

 このことは,みなさんの身近に起こりうるトラブルにも当てはまります。今回の報道のような,職場でのパワハラやセクハラはもちろん,家庭内での暴力や暴言といった類もそうです。これらについても,「言った言わない」や「暴力を振るった,振るっていない」といった,お互いで主張が食い違ってしまう場合には,事実があったのかどうかわからなくなってしまいます。また,このことはお金のやり取りにも当てはまります。「お金を貸した」「いや,あなたからは借りていない」といった具合に,お金を貸したこと自体に対立が生じる場合もあります。

 

 このような対立状態になってしまうと,白黒はっきりつけるために裁判を,ということになってしまいますが,裁判の基本的なルールでは,事実の真偽が証拠をみてもわからない場合,その事実は存在しないものとして扱われてしまいます。つまり,パワハラを受けたと主張しても,証拠上それが明らかでない場合は,パワハラ発言はなかったと扱われてしまうのです。ですから,パワハラ等があったと主張する場合には,今回の件のように,その言動を録音したものや上司からの手紙などを事前に収集しておくことが重要です。また,お金の貸し借りについても,借用証や領収証など,相手が言い逃れできないような証拠の有無が,裁判の行方を左右することとなります。

 

 普段の生活ではあまり意識されないかもしれませんが,「何かあったらその証拠を残す」ことが大切であること,それを,今回の一件は教えてくれたのかもしれません。

 

 

弁護士 田村秀樹
ホワイトペッパー第255号(2017/8/4 発行)掲載