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リーガル通信 ~執行猶予~

2016年12月09日

  某有名歌手が,覚せい剤を使用した疑いで逮捕されました。この原稿を書いている段階では本人は否認をしているようですので,実際に彼が薬物に手を染めたかどうかはわかりませんが,もしこれが事実であるならば,彼は「執行猶予中に」罪を犯してしまったことになります。

 

 執行猶予とは,罪を犯したことを前提に,本来であれば刑の執行(刑務所に入れられるなど)を受けるはずのところを,執行猶予期間に何の罪も犯さなければ,刑の執行を受けることがなくなるという制度です。たとえば,「懲役1年執行猶予3年」という刑の宣告がされれば,本来であれば1年間刑務所で服役しなければならないところ,3年間の猶予期間を平穏無事に過ごせば,刑務所で服役せずに済むこととなります。なお,罪を犯したことが前提ですので,執行猶予は無罪とは異なります。

 

 では,執行猶予の期間中にその者が再び罪を犯してしまった場合ですが,二度目の罪について有罪と認められ,懲役などの刑に処せられることになると,原則として,一度目の罪についての執行猶予は取り消されることなります。先ほどの例だと,一度目の罪について1年間,刑務所で服役することとなってしまいます。さらに,二度目の罪についても刑に処せられることとなりますので,一度目の罪と二度目の罪で言い渡された期間分,刑務所に行かなければならないこととなってしまうのです。二度目の罪に対する刑は,一般的には一度目の罪の刑よりも重くなりますから,長期間刑務所で服役することを覚悟しなければなりません。初犯のときは執行猶予をもらうことができたのに,執行猶予期間中の再犯となると,そのツケが二回分の刑としてどーんと降りかかってくるわけです。

 

 某有名歌手の場合は,逮捕されたにすぎませんから,これだけで執行猶予が即取消になり,刑務所に収監されることはありません。しかし,再び薬物を使用したということになれば,長期間服役することは免れないと思います。

 

 薬物犯罪は他の犯罪よりも,再び罪を犯す可能性が高いものです。改めて,薬物の恐ろしさを実感された方も多いのではないでしょうか。

 

 

 

弁護士 田村秀樹
ホワイトペッパー第239号(2016/12/9発行)掲載