ご高齢の方,中でも特に,周りに頼れる身寄りがいらっしゃらない方などは,将来自分に何かあったときのことを不安に思っていらっしゃるのではないでしょうか。特に,ご自身が認知症などになってしまったら,代わりに入院等の手続きをしたり,適切に財産の処分や管理をしてもらう人が必要になる場合もありますから,そういった人を今から頼んでおきたいというニーズもあるのではないでしょうか。
そういった方に知っていただきたい制度が「任意後見制度」です。この制度は,認知症などによってご自身の判断能力が低下する前に,そういったことに備えて,「誰に」「どんなことをお願いするか」を自分の意思で決めておくことができるものです。
認知症になってしまった場合は,成年後見制度といって,その方の代わりになる人(後見人等)が財産の管理などを行ってくれる制度を利用できますが,その時点でご本人は認知症になってしまっていますから,お願いする相手やお願いする内容を自分で決めることはできません。この部分が,任意後見制度との大きな違いです。
もっとも,任意後見制度では,財産の管理など,ご自身にとって重大なことを決めることになりますから,本人に不利益なことが生じないよう様々な仕組みがとられています。
まず,この制度を利用するには,ご本人が財産の管理などをお願いする人と契約を結ぶ必要がありますが,ご本人の意思やお願いする内容の正確性を担保するため,契約は公証人という専門家が作成する公正証書というもので残さなければなりません。
また,この契約は,ご本人が認知症などになって判断能力が低下したときに効力を生じるものとなりますが,この際,裁判所に,任意後見監督人という監督者を選んでもらわなければならないことになっています。この監督者の存在によって,財産の管理が適切に行われているかがチェックされ,本人に不利益が生じてしまうことを防ぐわけです。
私たち弁護士も,任意後見制度利用のお手伝いをさせていただいていますので,関心を持たれた方はぜひご相談ください。
弁護士 田村秀樹
ホワイトペッパー第269号(2018/3/2発行)掲載