皆さんが友人に百万円を貸していたとします。しかし、その友人がいくら言っても百万円を返してくれない場合、最終的には訴訟を起こすしかありません。では、訴えが認められて勝訴した場合、貸した百万円はすんなり戻ってくるでしょうか…答えは「NO」です。
日本の制度では、裁判で勝ったとしても、自動的にお金が返ってくる仕組みになっていません。もし、裁判で勝ってもやはり相手が百万円を返さない場合には、別途「強制執行」という手続をとる必要があるのです。強制執行とは、勝訴判決をもって、相手の財産を強制的に差し押さえる手続です。皆さんはこの手続を取ることを、改めて裁判所に申出しなければなりません。
さて、申出をすれば必ず百万円が取り返せるかというと、これも「NO」。相手の財産がどこにあるのかわからなければ、差押えのしようがないからです。そして、裁判所は自ら進んで相手の財産がどこにあるかを調査することはありませんから、相手の財産がどこにあるのかは、皆さん自身で把握しておかなければならないのです。
この点、相手が定職についていて、勤務先もわかる場合は、相手の勤務先からの給料を差し押さえて百万円を回収することが考えられますし、相手の預金口座がわかっていれば、これを差し押さえることも可能です。
しかし、給料の差押えに関しては、相手が転職してしまった場合などに、改めて差押えをしなければならないこと、預金口座の差押えに関しては、相手がどこの金融機関のどの支店に口座を持っているかまでわからなければ差押えできないことなど、強制執行も一筋縄では行きません。残念ながら、裁判で勝っても、ただの紙切れと化してしまうこともあるのです。
一度お金を貸すと、それを回収することには大変な労力を必要とします。いくら気のあった友人でも、お金の貸し借りは慎重にしたいものです。
弁護士 田村秀樹
ホワイトペッパー第193号(2015/2/20発行)掲載